誤った12.29談話とのつじつま合わせに陥っている日本共産党への4つの質問~「従軍慰安婦」問題をめぐる日韓政治「決着」を考える(8)~
- 2016年 1月 29日
- 時代をみる
- 醍醐聡
2016年1月28日
安倍首相の「おわび」と「反省」はそれでも「成果」?
来日中の韓国の元「従軍慰安婦」が昨日、日本共産党の2人の国会議員と懇談した。その模様が今朝の『しんぶん赤旗』の1面の記事で伝えられている。
笠井・紙議員「慰安婦」被害者と懇談
安倍首相は合意基づき具体的事実認め謝罪を
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik15/2016-01-28/2016012803_02_1.html
その中で笠井亮衆議院議員が次のように発言したことが紹介されている。
「笠井議員は、被害者や支援者らの粘り強いたたかいが今回の合意で安倍政権に『おわび』と『反省』を言わせたと敬意を表し、『当事者抜きの解決ではなく、これからが大事だ』と強調しました。合意後も、自民党議員による暴言を放置する政府や、まだ合意が履行もされていないのに『終止符を打った』などとする安倍首相の言動を批判。『今回の合意に基づき加害と被害の事実を具体的に認め、それを反省し謝罪することが重要だ。安倍政権をこの立場に立たせるよう、一層努力していきたい』と語りました。」
「被害者や支援者らの粘り強いたたかいが今回の合意で安倍政権に『おわび』と『反省』を言わせた」
こういう発言を読むと、笠井氏なり日本共産党なりは、今でも安倍首相が「お詫び」と「反省」を表明したこと(させたこと)を成果と認識していると受け取れる。
私も、さまざまなバッシングを受けながらも、自らの人間としての尊厳をかけて、日本政府に公式の謝罪と法的賠償を求めるたたかいを20年以上にわたって続けてきた元「慰安婦」と内外の支援団体の労苦に敬意を表することに何ら異論はない。
しかし、その粘り強い運動に敬意を表することと、今回の日韓合意にあたって、安倍首相が表明した「おわび」と「反省」をどう評価するかはまったく別問題である。
笠井氏の発言を見ると、同氏あるいは日本共産党は、慰安所設置に「軍が関与」したこと、その上で日本政府として謝罪したことを問題の全面的解決に向けた「前進」と評価した昨年12月29日の志位委員長の談話を維持し、見直す意思がまったくないことを示している。
もっとも、笠井発言の後段では、今回の合意が当事者抜きで交わされたこと、合意のあとも自民党議員から出た妄言を政府は放置していること、今回の合意にもとづき、加害と被害の事実を具体的に認め、それを反省し謝罪することが重要、としている。
しかし、これと前段の発言を通して読むと、全体として意味不明の発言となる。
日本共産党への4つの質問
①「今回の合意にもとづき、加害と被害の事実を具体的に認め、それを反省し謝罪することが重要」という発言を裏返すと、笠井氏も安倍首相の「お詫び」は加害と被害の事実を具体的に認めないままの謝罪だったと判断しているに等しい。的確な歴史認識に依拠しない「お詫び」がなぜ「前進」なのか、なぜ、たたかいの成果といえるのか?
このシリーズの(5)(6)(7)で詳しく検討したように、安倍首相の「お詫び」は前進どころか、河野談話からも歴代の首相やアジア女性財団理事長の「お詫び」からも大幅に後退したものである。 ちなみに、韓国の『中央日報』が行った世論調査(1月5日、同紙掲載)によると、「安倍首相の謝罪に誠意はあるか」という問いに対して、「あまりない」が39.6%、「全くない」が37.0%で、両者を合わせると76.6%が 「誠意はない」と答えている。日本共産党はこの事実をどう見ているのか?
②合意後の自民党議員の妄言というが、安倍首相が1月18日の参議院予算委員会で示した「慰安婦」集めに強制はなかった(強制を裏付ける資料は見つかっていない)という発言を笠井氏あるいは日本共産党は「妄言」と考えていないのか? この発言について韓国内では合意に違反するという反発が広がっていることを笠井氏は知らないのか?
③安倍首相や自民党議員の間から、10億円の資金拠出は日本大使館前の「少女の像」の移転とセットだとみなす解釈や意見が公然と出ているが、これについて日本共産党はどう考えているのか? 被害国の市民の発意で建立された「少女の像」の移転を加害国が要求することを日本共産党はどう考えているのか? 政府間の「合意」で移設したりできると考えているのか?
ちなみに、韓国の世論調査会社リアルメーターが12月30日に発表した少女像の移転に関する世論調査(12月29日に成人535人を対象に実施)によると、回答者の66.3%が移転に「反対」と回答、「賛成」は19.3%にとどまった。
④笠井氏は昨年末の日韓合意で終止符を打ったとする安倍首相の発言を批判し、「今回の合意にもとづき加害と被害の事実を具体的に認め、それを反省し謝罪することが重要だ。安倍政権をこの立場に立たせるよう、一層努力していきたい」と発言しているが、そんな悠長なことを言っていてよいのか?
安倍政権は昨年末の合意で「慰安婦」問題は不可逆的に決着したと繰り返している。安倍首相は合意に向けて外交交渉が行われている間は封印していた「慰安婦」問題に関する持論を合意後、早くも開封し、「強制性はなかった」という自らの歴史認識を国会の場で公言した。
今回の日韓合意で終止符ではないと日本共産党がいうなら、「不可逆的解決」が既成事実化しないよう、直ちに国会で日韓「合意」のまやかしを質すべきところ、昨日(1月27日)、衆議院で代表質問に立った志位委員長は安保法制の廃止、立憲主義の回復、アベノミックスの3年間の検証、貧困と格差の問題の解決、緊急事態条項の危険性などについて安倍首相に質問したが、日韓合意、慰安婦問題については一言も言及しなかった。
「不可逆的解決」が既成事実化しつつある中で開かれた今国会で、このような代表質問では、懇談した元「慰安婦」に対して2人の国会議員が「一層努力したい」、「問題解決に向けて力を尽くす」と語った約束はどこへいったのか?
12月29日の志位談話を撤回することが不可欠
志位氏が代表質問で取り上げた課題は確かに、どれも目下の日本にとって喫緊の問題である。しかし、残虐な人権、個人の尊厳の蹂躙を意味する「慰安婦」問題をいろいろな国内問題と秤にかけてよいのか? 安倍首相の理性、政治家としても品性の崩壊を雄弁に表す彼の歴史認識を質すことは「安倍政治を許さない」運動の一翼とするのにふさわしい問題のはずである。
日本共産党が今回の日韓合意後も、正しい見地に立って「慰安婦問題」の解決に貢献する運動に取り組むには、合意を「前進」と評価した12月29日の志位談話を撤回することが不可欠である。あの談話の誤りに頬かむりしたまま、合意後に示された韓国の世論、元「慰安婦」の意思とつじつまを合わせようとするから、我田引水の強弁に陥るのである。
初出:醍醐聡のブログから許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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