書評の執筆一覧

「人間」イエス・キリストとは?-ルナン著『イエス伝』を読む(その5)

著者: 合澤清

5 .イエスの磔刑 ローマの執政官ピラトはイエスにある種の興味を抱いていたようだ。ヘーゲルが『エンチクロペディ―』のどこかで書いていたが、法廷でピラトはイエスに次の尋問をする。「真理とは何か?」ところがイエスはそれに対し

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「人間」イエス・キリストとは?-ルナン著『イエス伝』を読む(その4)

著者: 合澤清

4-2.イエスの変貌-「自分だけを崇めよ」 この本の第19章の「次第に増して行く熱情と興奮」から以降の諸章はイエスの変貌を追いかける上で非常に興味深い。イエスが次第に「神がかり」になると同時に、弟子に対して「自分だけを崇

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「人間」イエス・キリストとは?-ルナン著『イエス伝』を読む(その3)

著者: 合澤清

4-1.イエスの変貌-始祖(教祖)としての権威化と使徒たち 前回(その2)の終わりで、イエス自身の、また取り巻き組織(教団)の変質について触れ、またそれに対するユダのイエス批判(反発)があったのではないか、と述べた。私は

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「人間」イエス・キリストとは?-ルナン著『イエス伝』を読む(その2)

著者: 合澤 清

大急ぎで「その2)を書かなければならない羽目になったのは、前回の拙論の中での私の間違いをお詫びして訂正させていただきたいからだ。それは映画「ダ・ヴィンチ・コード」について書いた次の個所です。 「しかし、その後ダ・ヴィンチ

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「人間」イエス・キリストとは?-ルナン著『イエス伝』を読む(その1)

著者: 合澤 清

テクスト:『イエス伝』ルナン著 津田 穣訳(岩波文庫1941/57) 1.「神と呼んでもよいほどに偉大なる『比類ない人間』」 キリスト教にも、キリスト教史にも縁遠い評者=私が読んでも、よくこのような思い切ったことが書けた

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(書籍紹介)”Judgement at Tokyo” 補記 東京裁判とは何だったのか

著者: 小川 洋 

 前稿(10月1日掲載)では、本書の内容まで踏み込んでの紹介ができなかった。本稿では本書の魅力の一端を示すため、いくつかのテーマを取り上げながら本書の内容を紹介したい。 東京裁判前史-沖縄戦と原爆投下  沖縄戦においては

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21世紀ノーベル文学賞作品を読む(2―下)  『ミゲル・ストリート』(岩波文庫、小沢自然・小野正嗣:訳)を著したV.S.ナイポール(英国、2001年度受賞)の人となり――抑圧的な歴史を直視させた功績

著者: 横田 喬

 訳者の小沢自然氏(台湾・淡江大学英文学科准教授)は「訳者あとがき」にこう記す。  ――インド移民三世V.S,ナイポールは1932年、イギリス領トリニダード・トバゴに生まれた。『ミゲル・ストリート』は、彼の事実上のデビュ

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21世紀ノーベル文学賞作品を読む(1―下) 高行健の人となり ――祖国を捨て政治亡命者となった中国の作家の反骨の資質

著者: 横田 喬

以下は<注>以外は『ある男の聖書』(飯塚容:訳、集英社刊)巻末の「解説」による。 高行健は1940年、中国・江西省(中部の内陸省)に生まれた。父親は銀行員、母親は元女優。51年から六年間、中学・高校は南京第十中学に学ぶ。

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世界のノンフィクション秀作を読む(77) 北条常久(文筆家)の『評伝むのたけじ』(無明舎出版刊)――反戦平和を求め続けた在野のジャーナリストの一〇一年の生涯(下)

著者: 横田 喬

 1947(昭和22)年の大晦日、むのたけじの一家は大宮駅を発ち、元旦の朝に雪の横手駅に着く。48年2月2日、『週刊たいまつ』が創刊された。地元の青年を記者に二人、広告担当に一人、採用し、発行責任者は武野武治。粗悪な紙の

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世界のノンフィクション秀作を読む(77) 北条常久(文筆家)の『評伝むのたけじ』(無明舎出版刊)――反戦平和を求め続けた在野のジャーナリストの一〇一年の生涯(上)

著者: 横田 喬 

 むのたけじ(1915~2016)は戦前、朝日新聞記者として中国~東南アジア特派員を経験。1945年8月15日の日本の敗戦当日、自身の戦争報道の責任を感じて退社する。郷里の秋田県横手市で週刊新聞『たいまつ』を創刊、主筆と

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チベットから未来を見据える  ツェリン・ヤンキー著『花と夢』を読む

著者: 宮里政充

4人の女性たち  この『花と夢』は今年4月20日、春秋社から「アジア文芸ライブラリー」の第1作として出版されたものである。訳者は東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の星泉教授。チベット語からの翻訳である。 物語は

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アイデンティティーを求めて 書評:『チベット女性詩集―現代チベットを代表する7人・27選』(海老原志穂編訳・段々社発行)

著者: 宮里政充

7人の詩人たち  まず、「チベットを代表する7人」を作者紹介欄から抜粋したい。 ソンシュクキ:十代の終わりから詩作を始める。何冊もの詩集を出版。海外のチベット文学  研究者らの注目を集める。インドへ亡命。現在はオーストラ

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書評 『日本近代文学の潜流』(大和田茂・著 論創社・刊)

著者: 阿部浪子

大和田茂の長年にわたる研究成果が本書である。大杉栄も小林多喜二も登場するが、本命はやはり、埋もれているプロレタリア作家たちへの検証であろう。 大正期から昭和初期にかけて活躍した、平澤計七、新井紀一、中西伊之助、宮地嘉六、

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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』を読む ―平成おうなつれづれ草(12)―

著者: 鎌倉矩子

 2年前、ブレイディみかこさんの本『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社、2019)を読み、感想を本ブログに書いた(2019.12.16掲載)。それは、労働者と移民と性的マイノリティが多い町ブライトンの、

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革命の嵐の中で生き抜いた少年の記録 ナクツァン・ヌロ著『ナクツァン―あるチベット少年の真実の物語』

著者: 宮里政充

はじめに  この『ナクツァン―あるチベット少年の真実の物語』は、1950年代末に起こったいわゆる「チベット叛乱」を舞台としている。阿部治平氏は「解説―チベットと中国革命」の書き出しで、「本書は、中国革命に翻弄される時代に

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戦争体験者の魂が乗り移るとき ―敗戦75年に読んだ春日太一著『日本の戦争映画』(文春新書)―

著者: 半澤健市

 読み始めてしばらくは、戦後の戦争映画を恣意的に分類する平凡な書物だと感じた。 イデオロギーを排して「ニュートラル」な立場からという態度も消極的でつまらないと感じた。ところが読み進めていくうちに、不満の気分は残る一方で、

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「著者と読者の対話」 ―吉田裕著 『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』を読む―

著者: 半澤健市

 一つの読書会が『日本軍兵士』を読み、著者吉田裕氏を招いて「著者と読者の対話」を行った。本稿はその会合の報告である。 《読書会と著作の問題意識》  私(半澤)が属しているその読書会は、中江兆民の研究者松永昌三氏(以下人名

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日本人が見た「米国の下層社会」 ― 『ルポ トランプ王国2―ラストベルト再訪』を読む ―

著者: 半澤健市

 本稿は、朝日新聞記者金成隆一(かなり・りゅういち、1976~)の『ルポ トランプ王国2―ラストベルト再訪』、すなわち「ラストベルト」ルポの第二弾の紹介である。 ラストベルトとは何か。それは2016年の米大統領選挙で俄に

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明るい反戦小説に私は泣いた ― 書評 飯島敏宏著『ギブミー・チョコレート』(角川書店) ―

著者: 半澤健市

《ウルトラマンの監督が書いた昭和の本郷》  本書のオビにいくつかの惹句が書いてある。 ■「少国民」と呼ばれた、ごく普通の子どもたちの物語。 ■僕たちは、歌い、笑い、未来を見ていた。 ■『ウルトラマンQ』、『ウルトラマン』

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四〇歳は「惨勝と解放」に何を見たのか - 堀田善衛『上海にて』を読む(2) -

著者: 半澤健市

《戦争と哲学と歴史》  一九四五年の春、堀田善衛は当時上海にいた作家武田泰淳と南京に旅行した。二人は南京の城壁に登った。その時に堀田は次のように考えた。 ■中国戦線は、点と線だというけれど、こりゃ日本は、とにかく根本的に

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文学青年が政治を発見するとき - 堀田善衛の『上海にて』を読む -

著者: 半澤健市

 『上海にて』の序文には一九五九年六月の日付がある。 敗戦後一四年を経て書かれたこの文章について、筆者は「私のこれまでに書いた、まとまりのないもののなかでも、もっともまとまりのないものである。まとまりをつけようと努力をし

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『堀田善衛を読む―世界を知り抜くための羅針盤』を読む

著者: 半澤健市

生きているうちに、あと何冊本が読めるだろうか。 読書だけではない。全ての日常的な営みに関してそう思う。後期高齢者の心理である。 《気になっていた堀田善衛》  一、二冊を読んだだけで、ずっと気になってきた著述家を、誰もが、

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毅然とした時代批判に感動する  ―斎藤貴男『「明治礼賛」の正体』を読んで―

著者: 半澤健市

《国策「明治150年」への果敢な反論》  ジャーナリスト斎藤貴男(さいとう・たかお、1958~)による70頁の小冊子は 安倍晋三の「明治礼賛」論を粉砕する快作である。 本書『「明治礼賛」の正体』は三章で構成され、第1章で

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後藤新平の自治三訣に感銘  「人の世話をせよ、そして、むくいを求めるな」

著者: 岩垂 弘

 「LGBT(性的少数者)は子どもをつくらない、つまり生産性がない」。自民党議員による暴言、失言が後を絶たない。全部の議員とは言わないが、国会議員の質的な劣化が進んでいるように思えてならない。そんなことを考えていたら、明

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世界のポピュリズムへ新論点を提起 ―真鍋弘樹『ルポ 漂流する民主主義』を読む―

著者: 半澤健市

本書は、日本人ジャーナリストによる世界大の「民主主義崩壊」―正確には「崩壊の危機」―の報告である。朝日新聞記者の真鍋弘樹(まなべ・ひろき、1965~)は、今世紀初頭から現在まで,日本本土・沖縄・米国各地・欧州を経巡った。

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犬養毅の5・15をめぐる知的対話 ―保阪正康『昭和の怪物 七つの謎』を読んで―

著者: 半澤健市

 ノンフィクション作家保阪正康(ほさか・まさやす、1939~)は、過去半世紀近く、インタビューと文献渉猟によって「昭和史」を書き続けてきた。しかし「昭和」も遠くなり、「平成」もあと一年半で終わる。今この作家は、なお新作を

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[書評]Amazonカスタマーレビュー『中国の夢――電脳社会主義の可能性』矢吹晋著(花伝社2017)

著者: 「霞の知」

電脳社会主義は可能性か、それとも新たな絶望の種か? 中国を中心に、アメリカ、日本、そして東アジア諸地域の関係を冷徹に観察し続け、その成果を次々と公開してきた著者の最新作に、わたしは、二つの大きな衝撃を受けた。 第一。習近

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