プーチンのウクライナ侵略とクリントンのセルビア侵略――西高東低気圧配置下皇帝廟算誤テリ――
- 2022年 3月 3日
- スタディルーム
- 岩田昌征
2月24日、プーチン大統領の露軍がウクライナに侵攻した。
私=岩田は、1999年3月24日、クリントン米国大統領のNATO軍が新ユーゴスラヴィア(セルビアとモンテネグロから成る連邦国家)に大空爆を敢行した事件を即座に想起した。それは、6月9日まで連日連夜続いた。
上記二つの戦争は明々白々に侵略戦争である。
クリントン侵略の場合、北米西欧日本の市民社会の99%がそれを肯定した。クリントン侵略戦争の共同謀議者であるドイツ赤緑政権支持者の民主主義者ハーバーマスのようにこの軍事侵略を正当化する社会哲学的論文を公表した者さえいた。今回のプーチン侵略戦争では、露国の誰か権威主義哲学者がこの侵略戦争を社会哲学的に正当化する論文を執筆できるであろうか。そんな哲理があり得るのか、是非読みたい。
2014年のプーチンによるクリミア半島の露国併合の時、私=岩田は、コソヴォ地域をセルビアからもぎとって独立させたクリントン侵略と比較すれば、両者ともに国際法侵犯であるが、クリントンよりもプーチンの側に情状酌量の余地があると判断した。しかしながら、2022年2月24日のプーチンのウクライナ侵攻は完全に侵略であって、情状酌量の余地なし。
もしも、露国に現在レーニンの如き人物がいるならば、「プーチン主義戦争を内乱へ、ウクライナ労働者農民と肩を組んで闘おう!」と檄をとばすことであろう。
クリントンNATO軍が78日間も連日連夜空爆しながらも、地上軍を派遣して、セルビア陸軍と直接たたかう事を避けたのは、セルビア民衆の歴史的に証明された祖国防衛戦への献身を熟知していたからである。プーチン露軍は、歴史的には未だ実証されていないウクライナ民衆の愛国心の生成と確立、すなわち郷土愛の祖国愛への昇化を促進する事になるかも知れない。
仮にキエフが陥落しても、それは1937年・昭和12年12月の南京陥落と同じで、ウクライナ国家指導集団は、蒋介石流に後退しつつ、米英独仏からの武器弾薬、例えば、対戦車劣化ウラン弾使用火器等の支援に頼って抵抗する事が出来よう。戦勝後放射能汚染で苦しむ事になろうが・・・。
プーチン露軍がウクライナの西部国境(ポーランド、スロバキア、ハンガリー、モルドバ)を完全封鎖できるであろうか、プーチン露海軍が黒海の制海権をにぎれるであろうか。高々30数万人の軍を動員しただけで、バイデンの単純な誘導発言(米軍は出さない)に安心して、上記のような国境条件を持ち、日本の2倍弱の国土と人口5千万を有するウクライナに攻め込むとは、プーチン政治哲学の底の浅さか、あるいは何か私達の知らない秘策があるのか。
ここに大きな危惧がある。
日本皇軍は中国大陸で戦争目的を喪失した。日本帝国臣民もまた対中戦争を何か弱い者いじめをしているようで、心から納得できず悶々としていた。そこに真珠湾攻撃、対米英戦が始まった。帝国臣民の悶々感は吹きとばされ、合理的戦力比計算のできる少数のリベラル派と帝国主義戦争反対の極少数のコム二ストを除けば、帝国臣民の大部分は、対米英開戦に社会心理的開放と光明を感じた。かかる実例によれば、プーチン政権がウクライナ侵略戦争の泥沼から対ブリュッセルNATO戦争に踏み切ったならば、ロシア国民も戦争に真剣になるかも知れない。核保有国であるから、大日本帝国の場合のように惨敗はまぬがれると計算して。
クリントン侵略とプーチン侵略に対する市民社会の反応を比較すると、以下のような結論が得られる。
権威主義国が侵略すると、侵略国は国際的経済制裁を受ける。
民主主義国が侵略しても、侵略国は国際的経済制裁を受けない。
権威主義国に侵略された国は、国際的経済支援を受ける。
民主主義国に侵略された国は、国際的経済封鎖を受ける。
権威主義国に侵略された犠牲者は、不幸中の幸いに、世界中の市民社会による感情移入的共感を得る。
民主主義国に侵略された犠牲者は、不幸中の不幸に、世界中の市民社会から素気ない挨拶を受ける。
世界中の常民社会は、誰に侵略されたかにかかわりなく、侵略された人々の痛みになみだする。
上の小文を理解する上で、「ちきゅう座」の岩田昌征拙文を参照して欲しい。
2014年3月22日 「ウクライナ・クリミア問題:アメリカの博愛(攻)とロシアの友愛(守)」http://chikyuza.net/archives/43421
〃 4月1日 「ウクライナ問題:米攻露守の深層」
http://chikyuza.net/archives/43603
〃 5月2日 「ロシア膨張論の幻影」
http://chikyuza.net/archives/44217
2022年1月18日 「忘却されたNATO東方不拡大『公式』――民主主義国の対外約束の信頼度を考える――」http://chikyuza.net/archives/116718
令和4年2月28日
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1207:220303〕
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