ブルマンさんへ - ジャック・ボー氏と彼の講演について
- 2023年 7月 28日
- 評論・紹介・意見
- グローガー理恵
ブルマンさん、お久しぶりです。 2013年の6月に掲載されましたブルマンさん著の記事「小児甲状腺がんは福島だけの問題なのか?」についてコメントさせて頂きましてから、はやくも10年の月日が流れてしまいましたが、ブルマンさんが相変わらずお元気でご活躍なさっていることを心から願っております。また、あのときは、ご丁寧に私のコメントに回答してくださったことに、あらためて御礼申し上げます。
つきまして今回は、私の拙稿 “ジャック・ボー氏に訊く 『内政上、ゼレンスキーが置かれた状況はきわめて不安定 』” および ”ジャック・ボー氏が探る 「ワグネルの反乱」の真相” を拝読して下さって、ありがとうございます!
ジャック・ボー氏について
私は、ブルマンさんが言及なさっているジャック・ボー氏について仏語のWikipediaがあること、そこに ”Conspirationnisme et désinformation (陰謀論と偽情報)”という項目があることは知っていました。私自身ここで挙げられているジャック・ボー氏の著書を読んでいませんし、正直言って読みたいとも思いませんので、何のコメントもできない立場にあるのですが、ひとつだけ申し上げたいことがあります。 それは、ジャック・ボー氏の主張を批評し、その信憑性を判断する上でもっとも重要なことは、彼のアーギュメントの論拠がどのようなファクト、データ、証拠/状況証拠に基づいたものであるのか、ということを確かめることではないか、ということです。
私が、ウクライナ紛争に関するジャック・ボー氏の論評およびインタビュー記事をご紹介したいと思ったのは、まさにその点にあります。私自身が理解した範囲では、ジャック・ボー氏はファクトに基づいて論理を展開していると思ったからです。なお「ワグネルの反乱」にも「内政上、ゼレンスキーが置かれた状況はきわめて不安定」にもソースを示すリンクが掲載されてありますので、お確かめください。
ロシアの特別軍事作戦の目標が”非軍事化”および”非ナチス化”であるということについては、2022年2月24日のプーチン大統領の演説がNHKウェブサイトに掲載されてありますので、もしよろしかったら、ご参照ください:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220304/k10013513641000.html
2022年4月15日、ジャック・ボー氏が ”The Military Situation in the Ukraine – Update“ とのタイトルで記事を書いていますが、その中に掲載されたグラフ “Number of Explosions in Donbass (ドンバスにおける爆発件数)” をご紹介させていただきます:
Source: https://labourheartlands.com/jacques-baud-the-military-situation-in-the-ukraine-update/
上図はOSCE (欧州安全保障協力機構)のSpecial Monitoring Mission(特別監視団)が記録した、ドンバスの住民に対するウクライナ軍による一日の砲撃の数です。期間は2022年2月14日から2月22日までとなっており、2月16日に砲撃数は急増し、その後さらに激増しつづけました。グラフは、ロシアの特別軍事作戦が開始される以前に砲撃が激しさを増していったという事を示しています。
ここで、ジャック・ボー氏は記しています:
「2月16日にドンバスの住民に対する砲撃が急増したことが、ロシア側に [ウクライナ軍による] 大規模な攻撃が迫っているのだということを告げていた。このことが、プーチンが共和国の独立を認め、国連憲章第51条に基づいて介入を検討することにつながった」。
なお、2022年2月、ロイターもドンバスにおける砲撃急増について報道しました:
(Russia voices alarm over sharp increase of Donbass shelling)
(OSCE reports surge in number of explosions in east Ukraine)
ー さらにCNNが2023年の1月23日に、プーチン大統領が「特別軍事作戦の目的はドンスでの戦争終結である」と述べたと報道しています。CNN日本語記事へのリンクです:https://www.cnn.co.jp/world/35198799.html
7月7日のジャック・ボー氏の講演について
7月7日、ドイツのフランス国境に近いバート・ベルクツァバン市でジャック・ボー氏の講演会 “ウクライナー現状と和平への展望 (Ukraine-aktuelle Lage und Friedensperspektiven Vortrag)” があり、最近、その録画が公開されました。私は録画を観ましたが、講演もその後のディスカッションも非常に興味深い内容でした:
講義の後、聴衆の中から質問があって、ほとんどの人が的を得たよい質問をしていま
した。 彼の答えもファクトに基づいていて説得力がありました。
ジャック・ボー氏はフランス系のスイス人で、祖父は2回(第一次大戦と第二次大戦)ドイツを敵にして戦ったのだそうです。家族・親戚の何人かはナチスと戦ったフランス・レジスタンスのメンバーでゲシュタポに捕まって殺されたそうです。その話をした時、ボー氏は感情的で今にも涙が出てきそうな顔をしていました。 おそらく、ジャック・ボー氏は、そうした過去があるにもかかわらず、今、フランスとドイツは、お互いに和解しあって友好関係にあり、自分はこうしてドイツに来て講演しているということに感激を覚えたのかもしれません。
ウクライナ人で戦死した人たちの数はかなり多いようです。 そして、これは決して西側では報道されませんが、ウクライナ国内では戦争に反対する運動が毎日のように起こっているそうです。 でもこれらの運動は政府に苛酷に弾圧されているとのことです。戦闘することを拒む人は殺されるのだそうです。ジャック・ボー氏は「このような状況の中で、ウクライナに兵器供与するのは犯罪である」と述べ、聴衆の拍手を浴びていました。
さらに、ジャック・ボー氏は彼の友人・ペーター・マウラー氏の言葉を紹介して、和平交渉の重大さを強調していました。
マウラー氏の言葉:
” 戦争は「善」や「悪」といった決めつけによって終結するのではなく、具体的な和解や調停作業によって終結する。”
一刻も速く、戦争が終結することを願ってやみません。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion13149:230728〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。