ひとがあるイメージを好きであったり嫌いであったりすることの意味はなんだろう、というような任意の設問をたててみる。そうすると、そのイメージに込められた人々の体験やこころの起伏によりそって、変化や屈折がプリズムのように放射
本文を読むカルチャーの執筆一覧
ブラウン管の中のスパイたち
著者: とら猫イーチ 改め 熊王 信之1960年代テレビ番組(洋画)では、西部劇が全盛であったことは、以前の投稿で少し書いたのですが、それ以外で当時、人気を博していた番組は、西部劇よりは少なかったもののスパイものが人気でした。 その多くは、米国からのものでし
本文を読む書評:長浜功著『「啄木日記」公刊過程の真相―知られざる裏面の検証』
著者: 阿部浪子「オレが死んだら日記は必ず焼いてくれ」。石川啄木は親友に託して1912年に他界している。しかし日記の焼却は遠のき、戦後、娘の夫によって公刊されるのであった。 著者の長浜功氏は、それまでの波瀾万丈の過程をじつに丹念にたど
本文を読む書評 神話の解体=福音書
著者: 宮内広利人間の生来の悲劇をさぐりあてたかのようなバタイユの考え方にとっては、「最高存在」の子であるイエス・キリストが肉体をもって実在した人物であったかどうかということは、とりたてて意味をもたない。イエス・キリストが実在しなかっ
本文を読む西部劇の思い出
著者: とら猫イーチ私は、西部劇が好きでした。 過去形で書かねばならないのは、近年になって、ハリウッドから西部劇の新作が全く世に出なくなったからですが、勿論のことに今でも好きなことには変わりはありません。 しかしながら、その昔、場末の映画館
本文を読むコバケン・レジェンド ―小林研一郎ハンガリー・デビュー40周年―
著者: 盛田常夫クラシック音楽が生活の一部 ウィーン、ブダペスト、プラハはいわばクラシック音楽のメッカ。週末にはマチネのコンサートが各所で開かれ、オペラハウスでも児童生徒用にマチネ公演がおこなわれている。子供でも楽しめるオペラやバレー
本文を読む書評 カミとアニミズム
著者: 宮内広利岩田慶治はアニミズム世界と空海の密教世界が似かよっていると指摘している。アニミズムとは自然の万物のうちにひそむ精霊をカミとして信じている人間の状態である。その世界では鳥や獣や河川の中に精霊がひそんでおり(擬人化)、自分
本文を読む書評 失墜した社会主義
著者: 宮内広利マルクスが『共産党宣言』において示した「私有財産の廃止」というスローガンは、あたかも国家的所有に受け取られかねない、とても誤解されやすい言い廻しである。この言葉とともに、共産主義者の任務である①土地所有を収奪する②強度
本文を読む書評 知の宗教
著者: 宮内広利20世紀最大の思想的事件はマルクス主義の解体であった。わたしたちは、1989年のベルリンの壁の崩壊やソ連邦の崩壊を体験したが、そのときの「あっけなさ」の感慨を忘れることができない。まさにそのためにこそ闘ってきたと信じてき
本文を読む『雪のひとひら』を読む
著者: 木村洋平ポール・ギャリコの『雪のひとひら』を読んでみましょう。雪のかけらの生涯を扱った物語、それは長めの童話のようです。雪のひとひらは、はるか上空で生まれ、地上へと降りてゆきました。 おかしなこと、と雪のひとひらは思いました
本文を読む書評;高橋行徳著『向田邦子「冬の運動会」を読む』(鳥影社刊)
著者: 阿部浪子闘う向田邦子を紹介したいと、著者の高橋行徳氏はいう。邦子は51歳で直木賞を受賞し、翌1981年に飛行機事故で他界している。 著者は、邦子が30代から書いてきたテレビの脚本に注目し、創作活動の転機となった「冬の運動会」
本文を読む書評 欠如のない時代の方角
著者: 宮内広利3.11前でさえ、あまりに速い世相の移り替わりなのに、停滞感がぬぐえないのはなぜだろうとおもってきた。誰もが自意識が総敗北をしているのではないかというような焦りを抱いていたのだ。しかし、このような思想状況は、わが国だけ
本文を読む書評 風景としての空海
著者: 宮内広利わが国に仏教が輸入されてそれほど時間がたっていない頃、学問重視の奈良仏教に対する真言密教の祖、空海の反抗は、自然との格闘の思想に深くかかわっている。仏教は紀元前5世紀頃にインドの釈迦が広めたことになっているのだが、その
本文を読む文学渉猟:芸術は神的なものを、情熱によって直観的なものにする
著者: 合澤 清書評:サマセット・モーム作『月と六ペンス』 中野好夫訳(新潮文庫)590円 サマセット・モームといえば、かつて大学受験英語の代表作家であった。その苦い思い出からか、私は長いことモームを読もうという意欲が起きなかった。その
本文を読む書評 シャーマニズムの思考論
著者: 宮内広利樋口清之の『卑弥呼と邪馬台国の謎』の中のシャーマニズムの解説を読むと、シャーマンの神憑りにはある階梯(ステップ)があることが想定されている。 ① 太鼓、笛、鈴などの楽器を奏しながら単調なテンポで踊ることで、自己陶酔から
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その9)
著者: 川元祥一16 店に戻ると誰も寝静まっていた。玄関の戸をゆっくり引いた。新聞販売店の玄関はいつも開いている。折込広告の束がいつ投げ込まれてもいいように。そしてまた、号外新聞がいつ出てもいいように。俺は忍び足でベットに
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その8)
著者: 川元祥一14 六月十五日。その日は朝から雨雲が垂れこめ、いつ降りだしてもおかしくない空模様だった。いつものように朝刊を配って朝飯を食った。その後二階に上がって体を休めた。今日のデモは正午からだった。しかしその前に緊
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その7)
著者: 川元祥一12 次の日学校に行くとキャンパスの空気がこれまでとまったく違うのを感じた。何かが止った感じ。時間が止ったとでも言うべきか。透き通った感じでもあった。昨日の夕刊や今朝の朝刊の紙面では国会議事堂
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その6)
著者: 川元祥一10 その日、五月二十日。朝飯を食って学校に行こうとしていると奥の部屋から声がかかった。 「川田さんお電話よ」 炊事の法子だった。彼女はおやじの姪にあたるという。ポチャポチャと丸太りしたおっとり女だった。お
本文を読む書評 折口信夫の宗教論
著者: 宮内広利わが国における感情の起伏としての三角関係と聞いて、すぐおもいつくのは折口信夫の宗教論のことである。 ≪常世のまれびとと精霊(代表者として多くは山の神)との主従関係の本縁を説くのが古い呪言である。呪言系統の詞章の宮廷に行は
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その5)
著者: 川元祥一8 その日は正午に正門前からデモが出発するのをビラや立看で知らせていた。いつもだったら学生が昼飯を食う時間を考慮するのだったが、この日はその考慮もしなかった。それでもいつもより多い千名近い学生
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その4)
著者: 川元祥一6 母や明子に言わせると、登紀子は決して口にしないのであるが、その出来事は、俺の家の者や親族は誰でも知っており、彼女のいないところではけっこう話題にのぼる。しかもそれは、当時幼かった俺の記憶の中にも断片とし
本文を読む「自発的隷従論」とはなにか ―16世紀のフランス青年の論文を読んで―
著者: 半澤健市本稿は、『自発的隷従論』Discours de la sevitude volontaireという本の紹介である。 古い本である。しかし「ちくま学芸文庫」では2013年の新刊である。それにしてもおどろおどろしい書名だ。
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その3)
著者: 川元祥一4 秋になると学費値上の動きが急になったようだ。この話は学校の理事会で進めており、オブザーバーとして明大全学学生自治会中央執行委員会(中執)が参加しているという話だった。文学部からは小野田と東洋史の定岡が入
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その2)
著者: 川元祥一2 大学のキャンパスというイメージからすると、狭くて寸詰まりな正門アーチだったが、入って行くと石造りでヒヤリとした空気と壁の艶が威厳を漂わせた。文学部の校舎は別にあるようだったが、国文科が使う教室がそんな校
本文を読む書評 ニッポン思想の源流
著者: 宮内広利梅原猛の日本文化論を読むと、このような考え方は、今ではほとんどのひとの内面に、過不足なく定着しているのではないかと納得してしまう。彼は、西欧文明は科学技術に裏づけられた合理的な理性文明であって、自然に対する力の原理で世
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その1)
著者: 川元祥一群れず休まず横たわることもなく海原を行くマンタ。俺はお前のそんな姿が好きだ。限りなく俺に似ていると思う。あゝ、そう言うと少し違うかも知れない。俺はお前のように強くはない。そして俺は人と群れて騒ぐのが嫌いではない。これまで
本文を読むこんなに様々な老いがある ―高齢時代への新たな視点― 書評 天野正子著『〈老いがい〉の時代―日本映画に読む』(岩波新書)
著者: 半澤健市高齢社会は「老い」が普遍化した社会である。その老いをどう受け入れるか。本書は、「その未知なるものを想像する〈老いがい〉を考える手がかりとして、第二次世界大戦後の日本映画を素材に、老いや老年、介護が伝えるメッセージを読み
本文を読む丸山眞男「政治の世界 他十篇」の解説から
著者: 山端伸英最近出版された岩波文庫の「政治の世界、他十篇」の解説で松本礼二という大学教授が、丸山眞男の「政治学者」へのイメージについて次のように言っている。 「すなわち政治学者は医者にして指揮者であれと。今日の学問状況を前提にすれば
本文を読む【俳文】札幌便り(17)
著者: 木村洋平東京にて三月を迎えた。初春の気に満ちている。 野に生えて苦み走りぬ春菊も 春菊の野生の苦みと、世を渡り単純でいられなくなる人間の様とが重なる。暖かい日に家のそばをそぞろ歩いて。 白梅のひとつらなりに伸び上がり みて
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