6 母や明子に言わせると、登紀子は決して口にしないのであるが、その出来事は、俺の家の者や親族は誰でも知っており、彼女のいないところではけっこう話題にのぼる。しかもそれは、当時幼かった俺の記憶の中にも断片とし
本文を読むカルチャーの執筆一覧
「自発的隷従論」とはなにか ―16世紀のフランス青年の論文を読んで―
著者: 半澤健市本稿は、『自発的隷従論』Discours de la sevitude volontaireという本の紹介である。 古い本である。しかし「ちくま学芸文庫」では2013年の新刊である。それにしてもおどろおどろしい書名だ。
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その3)
著者: 川元祥一4 秋になると学費値上の動きが急になったようだ。この話は学校の理事会で進めており、オブザーバーとして明大全学学生自治会中央執行委員会(中執)が参加しているという話だった。文学部からは小野田と東洋史の定岡が入
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その2)
著者: 川元祥一2 大学のキャンパスというイメージからすると、狭くて寸詰まりな正門アーチだったが、入って行くと石造りでヒヤリとした空気と壁の艶が威厳を漂わせた。文学部の校舎は別にあるようだったが、国文科が使う教室がそんな校
本文を読む書評 ニッポン思想の源流
著者: 宮内広利梅原猛の日本文化論を読むと、このような考え方は、今ではほとんどのひとの内面に、過不足なく定着しているのではないかと納得してしまう。彼は、西欧文明は科学技術に裏づけられた合理的な理性文明であって、自然に対する力の原理で世
本文を読む連作・街角のマンタ(第二部) 六月十五日(その1)
著者: 川元祥一群れず休まず横たわることもなく海原を行くマンタ。俺はお前のそんな姿が好きだ。限りなく俺に似ていると思う。あゝ、そう言うと少し違うかも知れない。俺はお前のように強くはない。そして俺は人と群れて騒ぐのが嫌いではない。これまで
本文を読むこんなに様々な老いがある ―高齢時代への新たな視点― 書評 天野正子著『〈老いがい〉の時代―日本映画に読む』(岩波新書)
著者: 半澤健市高齢社会は「老い」が普遍化した社会である。その老いをどう受け入れるか。本書は、「その未知なるものを想像する〈老いがい〉を考える手がかりとして、第二次世界大戦後の日本映画を素材に、老いや老年、介護が伝えるメッセージを読み
本文を読む丸山眞男「政治の世界 他十篇」の解説から
著者: 山端伸英最近出版された岩波文庫の「政治の世界、他十篇」の解説で松本礼二という大学教授が、丸山眞男の「政治学者」へのイメージについて次のように言っている。 「すなわち政治学者は医者にして指揮者であれと。今日の学問状況を前提にすれば
本文を読む【俳文】札幌便り(17)
著者: 木村洋平東京にて三月を迎えた。初春の気に満ちている。 野に生えて苦み走りぬ春菊も 春菊の野生の苦みと、世を渡り単純でいられなくなる人間の様とが重なる。暖かい日に家のそばをそぞろ歩いて。 白梅のひとつらなりに伸び上がり みて
本文を読む周回遅れの読書報告(その24) 古本を巡る因縁話(鈴弁事件のこと)
著者: 脇野町善造神保町の古書店街に行くたびに寄る古本屋がある。名前は知らない。本を買って、袋に入れて貰うこともあるが、その袋にも名前は入っていたことがない。数冊しか買わないときは、袋さえ貰わない。買うのは100円か200円の均一価格の
本文を読む書評:戦中世代への熱い共感。村永大和『玉城徹のうた百首』
著者: 阿部浪子「立ちあがり野ばらの花を去らむとき老いのいのちのたゆたふあはれ」。玉城徹は、野バラに感応しつつ何を語りかけているのだろう。 玉城徹の8つの歌集から、村永大和氏が、100首を抜すいし解読する。冒頭の歌は、初句と三句が強
本文を読む周回遅れの読書報告(その23) 西田信春と岡崎次郎
著者: 脇野町善造夢野久作(杉山泰道)の秘書に紫村一重という人物がいた。非合法時代の日本共産党九州地方委員会の活動家だった男である。その紫村が同委員会の委員長だった西田信春のことを書いているものを、鶴見俊輔が『夢野久作 迷宮の住人』で紹
本文を読む周回遅れの読書報告(その22) 現状分析の一つの試み
著者: 脇野町善造「百年に一度の津波に襲われたようなものだ」。これはアメリカの発券銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)の元議長グリーンスパン氏が、2008年の金融危機に対する責任を問われた際に、吐いた言葉である。「百年に一度の危機」と
本文を読む『巨人たちの俳句:源内から荷風まで』を読む
著者: 木村洋平ちょっと変わった俳句の本。6人の巨人たちの俳句を紹介する。 小説家の永井荷風(ながいかふう)、社会主義者の堺利彦(さかいとしひこ)、民俗学者の南方熊楠(みなかたくまぐす)、禅僧の物外和尚(もつがいおしょう)、博物学者の平
本文を読む書評 「詩文集 生首」 辺見庸・著 毎日新聞社・刊
著者: 阿部浪子「まなかいをかすめて/青く吹きわたる風の/その根は/そちらにわたらないと/視えはしない」。このような詩句をふくむ、46編の詩文集からは、悲しみがそくそくと伝わってくる。それが過ぎると怒りの心情が。著者の「際限もなくあさ
本文を読む周回遅れの読書報告(その21) イングリッド・バーグマンの箴言
著者: 脇野町善造「座右の銘などは持たない」のが「座右の銘」だ、とキザに言いたいところだが、実は一つだけある。「後悔とはしなかったことに対していうものであって、やったことに対していうものではない」というのがそれである。もともとは女優、イン
本文を読むおひとりさま入院記
著者: 鎌倉矩子―平成おうなつれづれ草(7)― 私は老人のひとり暮らしである。 3年前に右肺に腫瘍のカゲがあることを指摘され、以来経過を追っていたが、昨年の末ついに、「もうそろそろ、手術で取ったほうがいいかもね」と勧告を受けた。そう言っ
本文を読む「雪の女王」とアンデルセンの生涯
著者: 木村洋平アンデルセンの童話は短いものが多いのですが、そのなかで長さでも内容のボリュームでもひときわ目立つのが「雪の女王」です。これは、「七つのお話からできている物語」と副題がつき、悪魔の話から始まります。 「ある日のこと、悪魔
本文を読む湯浅芳子―わたしの気になる人
著者: 阿部浪子女どうしのケンカが、大事なものを壊してしまうことがある。もし田村俊子賞が継続していたら、女性文学者の輩出とその成長をあとおししたろうに。と思うと、田村俊子賞のなくなったことは残念だ。 湯浅芳子(1896~1990)を
本文を読む周回遅れの読書報告(その20) クロンシュッタトの水兵と埴谷雄高
著者: 脇野町善造クロンシュタットの水兵の話を続ける。久野収と鶴見俊輔の対話集『思想の折り返し点で』で久野が埴谷雄高から貰った手紙を紹介している。久野の発言は次の通りである。 ベルリンの壁が落ちたときに、埴谷氏がぼくにくれた葉書に、「あ
本文を読む【俳文】札幌便り(16)
著者: 木村洋平二月四日の立春を迎えるも、円山公園では積雪が腰まで達していた。今年は雪が少ないと言われていたから、「これでやっと真冬だ」とかえってほっとする心地。 初午や白樺枝を天に寄す 今年の初午(はつうま)は二月四日で立春と同じ。い
本文を読む周回遅れの読書報告(その19) クロンシュタットの水兵の反乱
著者: 脇野町善造2月26日という日は、日本では1936(昭和11)年の2.26事件の起きた日として記憶されているのが一般的であろう。その15年前(1921年)の2月26日に、ロシアのクロンシュタット要塞の水兵達の艦隊総会で歴史に残るよ
本文を読む本のカフェ第二回(札幌、りたる珈琲にて)のご報告
著者: 木村 洋平2014年1月26日(日)札幌の円山、りたる珈琲にて。第二回の本のカフェが開催されました。ご報告いたします。 13時ー16時の枠でしたが、12時半から受付を開始しました。ワルツ・フォー・デビィをたしか掛けていたと思います
本文を読む風刺の種 蒔かぬ種は生えぬ
著者: 乱鬼龍◆狂歌 今年こそウマくいくよな年にして悪政を討つ馬力かけたし アべノミクスの字をとればアベノミスハタンバタンの音が聞こえる 官邸前これが民意だ正論だ寄せては返す民の熱声 悪相が揃い悪政吠えたててとどのつまりは国
本文を読む井上清子―わたしの気になる人
著者: 阿部浪子90歳になっても働ける職場は、経営者が立派だからであろうか。 わたしは、浜松市立高校を卒業している。先輩の須藤トキさんは、90歳まで、東京銀座の井上特許事務所につとめていた。女優の森光子や作家の萩原葉子とおなじ年の生まれ
本文を読む文学渉猟:啄木と北一輝/市川正一の不屈神話を暴く
著者: 合澤清*書評:下里正樹著『京子浪淘』(五月書房 1995)2060円 実に興味深い小説である。まずこの本の作者のキャリアからして興味をそそる。下里正樹は日本共産党の機関紙「赤旗」の敏腕記者だった。ところが、彼が青森県弘前市の文
本文を読む「本のカフェ」第一回のご報告
著者: 木村洋平「本のカフェ」とは、10人程度で集まり、3〜5人がひとり一冊本の紹介をしたのち、フリータイムをとって交流するという企画です。全体で3時間。第一回は東京、恵比寿で開催しました。そのときの記録です。 【スタート】恵比寿のカフ
本文を読む川上徹著『戦後左翼たちの誕生と衰亡―10人からの聞き取り』
著者: Cこの本の題名は『戦後左翼たちの誕生と衰亡』であって『戦後左翼の誕生と衰亡』ではない。従って、本書で取り上げているのは、戦後左翼運動の全般的な歴史や総括ではなく、あくまで戦後を左翼として生きた個々人の人生の軌跡である。ただ
本文を読む書評:加藤典洋・著 「太宰と井伏―ふたつの戦後」
著者: 阿部浪子なぜ、『人間失格』を書いたあと太宰治は心中しているのか。20代の自殺・心中未遂事件は、生活上の不如意が原因だった。だが1948年、家庭的にも作家的にも安定していたとき、家庭の幸福こそ諸悪のもとと主張し、心中している。そ
本文を読む2014年1月26日のこと
著者: 上里佑子午前11時に市ヶ谷のアルカディアへ来てくれと東京台湾の会の加藤美智子女史に誘われた。会場は明石元二郎の孫にあたる明石元紹氏の出版記念会だった。本は『今上天皇 つくらざる尊厳』級友が綴る明仁親王 講談社 定価1900円。本
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