書評の執筆一覧

書評;高橋行徳著『向田邦子「冬の運動会」を読む』(鳥影社刊)

著者: 阿部浪子

 闘う向田邦子を紹介したいと、著者の高橋行徳氏はいう。邦子は51歳で直木賞を受賞し、翌1981年に飛行機事故で他界している。  著者は、邦子が30代から書いてきたテレビの脚本に注目し、創作活動の転機となった「冬の運動会」

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こんなに様々な老いがある ―高齢時代への新たな視点― 書評 天野正子著『〈老いがい〉の時代―日本映画に読む』(岩波新書)

著者: 半澤健市

 高齢社会は「老い」が普遍化した社会である。その老いをどう受け入れるか。本書は、「その未知なるものを想像する〈老いがい〉を考える手がかりとして、第二次世界大戦後の日本映画を素材に、老いや老年、介護が伝えるメッセージを読み

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周回遅れの読書報告(その24) 古本を巡る因縁話(鈴弁事件のこと)

著者: 脇野町善造

 神保町の古書店街に行くたびに寄る古本屋がある。名前は知らない。本を買って、袋に入れて貰うこともあるが、その袋にも名前は入っていたことがない。数冊しか買わないときは、袋さえ貰わない。買うのは100円か200円の均一価格の

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書評:戦中世代への熱い共感。村永大和『玉城徹のうた百首』

著者: 阿部浪子

 「立ちあがり野ばらの花を去らむとき老いのいのちのたゆたふあはれ」。玉城徹は、野バラに感応しつつ何を語りかけているのだろう。  玉城徹の8つの歌集から、村永大和氏が、100首を抜すいし解読する。冒頭の歌は、初句と三句が強

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書評 「詩文集 生首」 辺見庸・著  毎日新聞社・刊

著者: 阿部浪子

 「まなかいをかすめて/青く吹きわたる風の/その根は/そちらにわたらないと/視えはしない」。このような詩句をふくむ、46編の詩文集からは、悲しみがそくそくと伝わってくる。それが過ぎると怒りの心情が。著者の「際限もなくあさ

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周回遅れの読書報告(その21) イングリッド・バーグマンの箴言

著者: 脇野町善造

「座右の銘などは持たない」のが「座右の銘」だ、とキザに言いたいところだが、実は一つだけある。「後悔とはしなかったことに対していうものであって、やったことに対していうものではない」というのがそれである。もともとは女優、イン

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「女の子にも教育を」と訴え、実践してタリバンに撃たれた少女 --

著者: 伊藤力司

「わたしがマララ」マララ・ユスフザイ、クリスティーナ・ラム著 金原瑞人、西田佳子訳 (学研パブリッシング、428ページ 1680円) 世界中でベストセラーになった話題の書「わたしはマララ」は、女子教育に反対するイスラム教

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大寒に負けず、猛暑にも負けず、愉しく英気の「養生」を  ――林郁著『游日龍の道―台湾客家・游道士の養生訓―』を読む―― 

著者: 舟本恵美

タクラマカン砂漠にある日龍堆という場所は風で毎日形をかえるが、いつも龍のように見えるという。タクラマカン砂漠の前には崑崙山脈がつらなる。崑崙派道教の聖地につながる「日龍」という名を本書の主人公は祖父から命名された。道教相

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新刊書評 林 郁 著 『游日龍の道』 東洋書店刊 

著者: 木村聖哉

 林郁さんの新刊「游日龍の道」のサブタイトルに「台湾客家・游道士の養生訓」とある。游日龍は台湾崑崙派道教の総師。いま91歳だが、女性や若者に大人気の老師で、法衣を着たことがなく、子どものような笑顔の人だという。  台湾「

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空想の世界は印象的だ ー書評:吉屋えい子著『銀の花』

著者: 阿部浪子

 横浜と東北とオランダという三つの故郷をもつ吉屋えい子氏が描く小説集は、大人だ けでなく中学・高校生が読んでも感動するだろう。  「銀の花」のヒロイン「里季」には「人生の宝」である二人の恩人がいるという。一人は、海岸の得

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戦時下の女性の過酷な労働実態を明らかに 『武蔵野市女性史 あのころ そのとき―国策に絡め捕られて―』

著者: 岩垂 弘

 戦争における最大の犠牲者は前線に送られた兵士たちだが、“銃後”の女性たちもまた戦争遂行という国策によって動員された犠牲者だった――第二次世界大戦下の女子労働者の実態を明らかにした冊子『武蔵野市女性史 あのころ そのとき

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いきいきと立ちのぼってくる漱石の全体像 ―書評:森まゆみ著『千駄木の漱石』―

著者: 阿部浪子

 夏目漱石が駒込千駄木町57番地の借家に引っ越したのは、明治36年のこと。英国留学から帰国した年であった。漱石はこの地で「吾輩は猫である」を書き作家デビューする。やっと、嫌でたまらなかった講師業から足を洗ったという。  

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周回遅れの読書報告(2-1)  「野垂れ死にする自由」と経済ジェノサイド

著者: 脇野町善造

 中山智香子の『経済ジェノサイド』は、フリードマン流の新自由主義がいかに経済弱者を皆殺しにしていったかを、読みやすく書いた好著である。ただ、次の文章は気になった(282頁)。 自由を謳う統治が社会の一部分を見棄て、見殺し

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事件の核心を衝いた名著 矢吹晋著『尖閣衝突は沖縄返還に始まる――日米中三角関係の頂点としての尖閣』

著者: 星加 泰

 尖閣諸島をめぐる日中対立は次第に抜き差しならぬ事態になりつつあるように見えます。しかし、この問題に対して多くの日本人は「中国はけしからん」と漠然と思いつつ、しかし、中国の国内問題はあるにしても、なぜかくも強硬なのか、ど

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米国の「中立姿勢」の背景を解明 矢吹晋著「尖閣衝突は沖縄返還に始まる」

著者: 岡田 充

日本政府による尖閣諸島(中国名;釣魚島)3島の国有化(2013年9月11日)から間もなく1年。尖閣周辺海域では、連日のように中国公船が接近し巡視船と並走ゲームを演じている。まるでお船の運動会。日中双方で新政権が誕生し、関

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文学渉猟:この世は不条理から成る―「極限状況」において知る不条理の遍在

著者: 合澤清

アルベールカミュ著『ペスト』上・下 宮崎嶺雄訳(新潮社文庫1962) この本の舞台設定は、194x年、当時フランス領だったアルジェリアのオラン県の県都であるオラン市(当時20万人ほどの人口を擁していた港町)での出来事であ

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テキスト・クリティークによって突き崩された欺瞞的「放射線『安全』論」

著者: 合澤清

島薗進著『つくられた放射線「安全」論』(河出書房新社2013)2800円+税 1.著者のスタンス 著者は「あとがき」で書いているように、もともとは東京大学の医学系(理科Ⅲ類)に入学している。「(母方、父方の)二人の祖父も

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マルクス経済学はいま―宇野派理論家による現状分析―

著者: 半澤健市

書評 伊藤誠著『日本経済はなぜ衰退したのか―再生への道を探る』(平凡社新書) 《リーマンショックとは何だつたのか》 本書は、世間で絶滅危惧種とされるマルクス経済学者による世界経済と日本経済の現状分析である。説得力のある現

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